【NINA SIMONE'S GUM ニーナ・シモンのガム】ウォーレン・エリス/佐藤澄子訳 (2nd Lap・2024年)
"モノに執着する蒐集家は、また同時にアーティストでもあるという確信"
「噛み終えたガム」―本来なら誰もが見向きもしない、むしろ忌避するようなもの。それを拾い上げ、20年かけて聖遺物に変えてしまった男性の物語。
タイヤの鉛の重り、「ザ・ファントム」のコミックス、ガスの入っていない使い捨てライター、折れたクジャクの羽根、ヨーヨー、ぜんまいの巻き切れた腕時計・・・。本書の著者であるウォーレン・エリスの少年時代の宝箱。それはまた、映画『アメリ』に登場するドミトク・ブルドトーの宝箱のエピソードと重なるもの。
そして、たいていの男の子は現実に目覚めて、そんな宝箱のことなど忘れていく。だが、きっとエリスは、ミュージシャンとして世界中を巡りながらも、少年時代の「宝箱」を心の奥にずっと持ち続けていた。
1999年7月1日、ロンドン。メルトダウン・フェスティバルのステージに、ニーナ・シモンのが現れる。白いローブに身を包み、ピアノの前に静かに座る。その声が響いた瞬間、会場の空気が変わる。時間が止まり、会場が、いや、世界が、彼女の歌に、魂ごと持っていかれる・・・。声の深み、音楽的素養の高さ、そして、何よりも「私は今ここにいる」という圧倒的な存在感。一語、ワンフレーズ、まさに”歌う説得力”としての存在。
やがて、演奏が終わり、彼女は立ち上がる。ピアノの上に噛み終えたガムをそっと置いて、舞台を去る・・・。
そのガムを、タオルに包んで持ち帰った男がいた、そう、かっての宝箱の持ち主、ミュージシャンとなったウォーレン・エリスその人だった。
彼は、そのガムをただの記念品としてではなく、彼女の魂や瞬間の熱を封じ込めたもの、ニーナ・シモンの存在そのものとして扱う。
それが、ニック・ケイブとの友情によって、やがてミュージアムで展示するに至るプロセスは、感動的であるとともに、蒐集という行為にある、背景、物語、記録、その文化的な意味を改めて感じさせてくれます。
これぞまさに、「モノへの偏愛の極み」。ここで思い出すのが、郵便物、レシート、新聞の切り抜き、あらゆるものが詰め込まれた段ボール、アンディ・ウォーホルのタイムカプセル。
ウォーホルにとって、これらは「時代の断片」であり、「自身の存在の証」だった。思えば、エリスのガムも、モノを通して、時間を封じ込め、未来に語りかけようとする試み・・・。
価値のなさそうなモノに、どこまでも深い意味を見出していく姿勢。噛み終えたガム、記憶の物質化としてのアート。本書から改めて感じるのが、モノに執着するコレクター・蒐集家は、また同時にアーティストでもあるという確信です。
*帯付き、新品同様です。
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著者 ウォーレン・エリス/佐藤澄子訳
出版社 2nd Lap
出版年 1970年7月1日初版第一刷発行
サイズ 212×159㎜ ハードカヴァー版
総数 245ページ
状態 B
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